2009/11/24

何故アメリカンヴォーグ誌は「スタイル」で君臨し続けるのか~「ファッションが教えてくれること」~



アメリカンヴォーグ誌の編集長のアナ・ウィンターを追ったドキュメンタリー映画「ファッションが教えてくれること」の日本語題名というのは、ちょっと的を外していているような気がします。
原題の「The September Issue」というのは・・・アメリカンヴォーグ誌が秋冬ファッション(春夏より重要なシーズンとされる)のトレンドを伝える一年で最も重要な「9月号」という意味です。
毎年のように「前年より増ページ!」というのが「9月号」の目標というのは、なんともアメリカ的な尺度ではないでしょうか・・・?
ページ数が増えるということは、簡単に言えば「広告ページ」が増えるということで、ずばりアメリカンヴォーグ誌を所有しているConde Nast社にとっての増益ということなのです。
年々電話帳並に分厚くなっていくアメリカンヴォーグ誌の9月号というのは、アメリカ出版界の季節の風物のようになりつつのかもしれません。

アメリカの主要ファッション誌の編集長やディレクター/エディターの多数がイギリス出身のアングロサクソン系の女性という事実は、アメリカのファッションに於いて大英帝国の名残のヒエラルキーが生き残っていることを、否応なしに感じさせられます。
アメリカンヴォーグ誌の編集長のアナ・ウィンター女史も勿論イギリス人ですし、伝統的にアメリカ人のアシスタントにしてもWASP系のお金持ちのお嬢さんが雇われやすい環境という噂です。
(勿論、近年は人種的に例外もありますが・・・あくまでもアシスタントレベルではあるようです)
映画の中でのインタビューで認めているように、アナ自身の強みは冷酷なまでの編集者としての「決断力」であり、ファッションセンスに突出しているというわけではありません。
エディトリアルの誌面は、アナと同時期にアメリカンヴォーグ編集部に加わったグレイス・コディトンというウェールズ出身の元モデルのファンションディレクターによって”創造”されているのです。
グレイスは、時代の空気を感じてテーマを決め、服をモデルという被写体に着せて、スタイルに合ったカメラマンに撮影させていくのですが、彼女独自の世界を構築していきます。
それは、画家が絵の具で、彫刻家が石で作品を制作するように、ファッションをミディアムに「スタイル」という”ナマモノ”のファンタジーを表現をしているかのようです。
グレイスが具現化する誌面には、日本のファッション誌のような商品の「カタログ」化でもなければ、商品をマクロに捉えた「テイスト」感とは次元の違う、ファッションに対しての「夢」と「リスペクト」を感じさせます。
「テイスト」や「カタログ」でファッション誌を構成する日本という国は、まだ文化としてのファッションに関しては”極東の島国”でしかないと認識させられる思いがしました。

アメリカンヴォーグ誌が強大な影響力を維持し続ける秘訣は、アナの編集者としての先見の目と素早い決断力だけでなく、グレイスのファッションに対する愛情と想像力によるものだったのです。
この映画の中では常にコンフリクト(衝突)を繰り返す二人の女性ですが、アメリカンヴォーグ誌は両極端な個性を認め合うことによって生み出されていたことが、エンドロールのインタビューで明らかになります。
アナとグレイスの二人の成熟した緊張感のある人間関係にこそ「教えてくれること」があるのかもしれません。



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