2010/09/27

エロおばさん、ホラー作家の本領発揮・・・トラウマなんて生温い、奈落の底より深い地獄をみろ!~「嘘つき王国の豚姫」岩井志麻子著~



こんな不快な小説が大好物の自分って・・・ホント病気だと思ってしまいます。
しかし、ある意味「毒によって毒を制す」とでも言うのでしょうか・・・心が腐りそうなドロドロした物語だからこそ、読後に心が澄みわたるような清々しい気持ちになることもあるのです。
毒が強ければ強いほど・・・耐えきれないほどの地獄であればあるほど・・・衝撃で目眩がしてしまうほど・・・ボクの精神は浄化されるような気がします。
ただ、麻薬と同様に年齢とともに毒に対する抗体ができてきてしまって、より強い毒を求めている自分がいるのです。
岩井志麻子の最新作である「嘘つき王国の豚姫」は、そんなボクにとっても十分効果がある「毒」でありました。

ホラー小説家である岩井志麻子のホラー小説というのは、実はボクはまだ読んだことはありません。
MXテレビの「5時に夢中!」での下品なコメンテーターっぷりから「チンコ、チンコ」を連呼する単なる”エロおばさん”としての認識がボクには強くて、読んだ岩井志麻子本は「おばさんだってセックスしたい」だけなのであります。
アメリカのHBOで映像化されたものの、あまりの残酷描写に放映中止になったという曰くつきのホラー小説集「ぼっけい、きょうてえ」(日本ホラー大賞受賞の出世作)でさえ未読なのです。
それ故に、この「嘘つき王国の豚姫」を岩井志麻子の他の著書と比較することは出来ませんが・・・ホラー小説として書かれたわけではないにも関わらず、ボクにとっては、十分に”ホラー”でありました。

この小説の主人公「りか」は、目を背けたくなるような現実から逃避するために、人にも自分にも嘘ばかりついている性格のひん曲がったイヤ~な女であります。
そんな彼女自身の視点で語られる半生は、本当は何が起こっているかをどこかで認識しながらも、彼女自身にとって都合のいい「嘘」に、すべてすり替えていく生き方です。
幼い頃から壮絶ないじめを受けた「りか」「嘘」によって事態を克服するのですが・・・その「嘘」は、苦難の乗り越える強い人格を形成していくのではなく、非現実的で自己チューな「自我」を構築させていくだけ・・・彼女の人間性を大きく歪ませていきます。
近所の犬のおっちゃんから性的な暴行を受けた「りか」は、ますます自分の「嘘」の世界を作り上げていき、どんな現実でさえ「なかったこと」として頭の隅に追いやることが出来るのです。
いじめから”引きこもり”になって醜く太った「りか」は、不良の元同級生「ユミ」に巧みに誘われます・・・自我の大きな「りか」は容易く騙されやすくもあります。
そこで「ユミ」の恋人に「りか」を犯されるのですが・・・豚みたいに醜い女ともデキるという悪意の「罰ゲーム」だったのです。
「りか」は、これほどの辱めを受けながらも、性的な奉仕を一生懸命にして、汚い豚として扱われます。
しかし、こんな事件さえも「りか」の頭の中では、徐々に別な物語として「嘘」で書き換えられていくのです。
「ユミ」は、可愛い自分に嫉妬したに違いない・・・そして「ユミ」の恋人は、自分のことが本当は好きだったが、処女ではなかった(犬のおっちゃんに子供の時にヤラれている)ので傷ついて怒ったのだ・・・と。

ある晩「りか」は、引きこもっていた「嘘つき王国」から、東京へ家出をすることを決意します。
東京では、自分を虐げた同級生の「ユミ」という名をあえて名乗り、「若さ」だけを武器に当初は水商売に励むのです。
そして、繰り返し何度も整形手術をすることで”美しさ”も手に入れて、本番ソープ嬢として売れっ子なっていきます。
望まない妊娠で生まれた我が子を産み落とした直後に殺しても・・・「嘘」の作り話によって、自分はいかに母性に溢れる女性かという話にすり替えていくのです。
”若さ”を失っていくにつれて「嘘」は、ますます非現実的となっていき、さらなる罪を重ねていくことになります。
その後の「りか」の人生は、奈落の底よりも深い地獄のような精神世界になっていくので、読みきるのには覚悟は必要かもしれません。

エロ話も、一線を越えるような”どぎつさ”が売りの岩井志麻子ですから、この小説も「これでもか~」と「りか」の腐った人間性をえぐり出していきます。
表紙になっている顔をコラージュしたようなイラストは「りか」多重人格者であることを表しているのかもしれません。
あくまでも小説の中での話で主人公は精神を病んでいるだけと、フィクションと割り切れればいいのですが・・・「ブログでセレブ気取りの女が、結婚詐欺を繰り返して、嘘がつけなくなると男を練炭で殺害していた」なんて事件が実際に起こったりすると、現実とフィクションの違いは、それほどないような気がしてしまいます。
もしかすると「りか」ほどではないにしても「嘘」で成り立っている人間なんて、それほど珍しくはないのかもしれません。
特にインターネット上では、自分に都合のいいこと”だけ”を書いたり、見せることができるわけで・・・「なりたい自分」になることなんて、容易なことです。
自覚がないうちに「自分は、こういうキャラだから」と思い込んで、虚構の世界を作り上げていくことも、罪の意識なしに出来てしまうのですから。
「この人、何言ってんだろう?」っていう、ブログやツイッターがあっても、わざわざ「捏造か?」「真実か?」なんて、裏をとってまで突き止めようなんてことは、特に事件性がない限り誰もしようとしません。
軽度の”なりすまし”は、もしかすると悲惨な現実から逃避するこのできるポジティブな手段にもなり得るのかもしれませんが、どんな「嘘」でも、いつかは剥げるもの・・・次第に「人間性」を歪ませていくのかもしれません。

岩井志麻子の「毒」は、「嘘」まみれかもしれない現実を改めて思い起こさせる「猛毒」のような気がするのです。



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