2011/12/15

父親が75歳にして”ゲイ”をカミングアウト・・・いくつになっても人生はやり直しができる!~「人生はビギナーズ/Beginners」~



「人生はビギナーズ」は、妻の死後に”ゲイ”をカミングアウトした父親を回想しながら、恋愛関係に臆病な息子が成長する物語。数年ほど前・・・「サウンド・オブ・ミュージック」のトラップ大佐を演じていたクリストファー・プラマーが「ゲイをカミングアウト!」という噂を聞いたことがったので、クリストファー・プラマーがカミングアウトする父親役を演じると聞いて「デジャブか?」と思ってしまいました。おそらく・・・この映画の製作のニュースが、プライベートと混同されたようです。1950年代、ゲイは病気と判断されていて正直に生きることは困難なこと・・・隠れてコソコソと公衆トイレでセックスするしかない犯罪行為でもあったのでした。結婚することでゲイが治るのではないかと、藁をもつかむ思いで結婚するなんてことはよくあったのです。

主人公(語り手)の息子オリヴァー(ユアン・マクレガー)は38歳で独身のグラフィックデザイナー・・・恋愛に臆病で、一番の話し相手(話しかければ字幕で答えるオスカーの心の声)は、常に彼に寄り添っている愛犬のアーサー(コスモ)だったりします。
44年間連れ添った妻との死後、75歳になった父親ハル「私はゲイだ」とカミングアウトして、年下の恋人アンディ(ゴラン・ヴィシュニック)と出会い、”愛”に生きています。ゲイコミュニティーの政治活動や映画鑑賞会に参加して「遅い春」を謳歌していくのです。本作では、父親のカミングアウトだけがテーマではないので、息子オリバーがカミングアウトに対して苦悩する様子というのは描かれません。ただ・・・エキセントリックな母親とクールな父親の冷ややかな関係を見て育ったトラウマが、オリヴァーを恋愛関係に対して臆病にさせてしまっているのです。

カミングアウトしてから4年後、ハルは末期ガンの闘病生活を送っています。すでに医者から治療方法は残されていないと、自宅療養を言い渡されたいるハルですが・・・アンディを始め、ゲイの仲間達にも死期が近いことを伝えずに、最期までゲイとして楽しく仲間達と生きることを選びます。恋人のアンディとは愛し合っているものの、他の男ともデートをするというゲイカップルにありがちなオープンな関係・・・「自分は年寄りだから、ナンバーワンのボーイフレンドであるだけで満足」と納得しているところは、妙にリアルです。

父の死後の数ヶ月後、オリヴァーは仮装パティーでアナ(メラニー・ロラン)と出会います。彼女はフランス人の女優で仕事のためにロスアンジェルスのホテルに滞在しています。つかみどころのない彼女も、鬱気味の父親と関係に苦しんでいたり、うまく恋愛関係を築けないオリバーと似た者同士・・・お互いに惹かれ合いながらも、実際に一緒に暮らそうとすると、お互いに過去のトラウマに囚われてしまうのです。

うまくいっていた恋愛関係であっても「どうせ、またダメだ」と諦めてしまうことって、ストレート、ゲイに関わらず”ありがち”のこと・・・オリヴァーが内面の抱える恋愛に対する臆病さに、ボクは共感を覚えずにいられませんでした。父親のハルの残した荷物の中から、出会い系の投稿欄の原稿が見つかります。カミングアウト後、率直に”愛”と”性”を求め続け、新しいことを学ぼうとする生き生きとした父親の姿に、もう一度、二人の関係をやり直してみようというオリヴァーとアナの姿で映画は終わります。

本作は「オリバーの子供時代(1970年代半ば頃?)」「父の闘病生活(~2003年)」「父の死後から数ヶ月経ったアナとの日々(2003年~)」という主に3つの時間を(時にはワンカットごとに)移り変わりながら、オリヴァーのモノローグで語るスタイルなのですが・・・それは、まるで頭の中で思いを巡らしながら時間軸を自由に行き来するのと似ています。

父親が息子に”ゲイ”をカミングアウトするシチュエーションって、日本では”まず”アリエナイように思えてしまうけど・・・本作は、マイク・ミルズ監督自身(息子の立場)の経験を元にした自伝的な作品。グラフィックデザイナーとして知られるマイク・ミルズ監督の映像センスも本作の見所で、オリバーの描く奇妙なペン画は、監督自身が描いたもの・・・フラッシュで現れる過去のガールフレンドのイラスト、古い雑誌の写真やイラストの映像コラージュ、グラフィックに挿入されるイメージの数々は、知的でユーモアに富んだ独特な感触を本作に与えています。

「いくつになっても人生はやり直しができる」という”常套句”を「人生はビギナーズ」は改めて新鮮に伝えてくれるのです。

「人生はビギナーズ」
原題/Beginners
2011年/アメリカ
監督 : マイク・ミルズ
脚本 : マイク・ミルズ
出演 : ユアン・マクレガー、クリストファー・プラマー、メラニー・ロラン、ゴラン・ヴィシュニック、コスモ(犬)
2012年2月4日より劇場公開



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