2013/09/26

スティーヴン・ソーダーバーグ監督が信じた”愛”の物語・・・マイケル・ダグラスとマット・デーモンの怪演で蘇る”悪趣味エンターテイナー”の晩年~「恋するリベラーチェ/Behind the Candelabra」~



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先日発表された第65回エミー賞の身ミニシリーズ・TV映画部門で「恋するリベラーチェ」は、作品賞、主演男優賞(マイケル・ダグラス)、監督賞(スティーヴン・ソーダーバーグ)を始め、キャスティング賞、編集賞、衣装賞、ヘアスタイル賞、特殊メイク賞、アートディレクション賞、サウンドミックス賞の計11部門で受賞しました。スティーヴン・ソダーバーグ監督の休業前の最後の作品(劇場作品としては「サイド・エフェクト」)となった本作は、アメリカではHBOのテレビ映画作品として放映されましたが、日本では劇場映画として公開されます。

リベラーチェの芸能活動はラスベガスでのショーが中心・・・ピアニストなのでヒット曲があるわけでもありません。アメリカ以外では知られていないものの、アメリカで絶大な知名度を誇ったのは、過剰装飾のキッチュな衣装で出演し、ウィットに富んだトークで、トークショーの常連であったからでしょう。悪趣味であることを自覚し、それを”売り”にする彼のスタイルは、1980年代前半には、決して”おしゃれ”としては受け取られていませんでした。(逆に今なら、半端ないぶっ飛びっぷりに楽しめてしまうかも?)また、頑に同性愛者であることを否定する姿勢も、ゲイコミュニティーからは好意的には受け取られていませんでした。その言動から、彼がゲイであることは多くの人に明らか・・・ゴシップ誌の同性愛報道や元ボーイフレンドとのトラブルでの裁判沙汰になっても、彼の熱狂的なファン(主に田舎のおばちゃん)は、「リベラーチェは絶対ゲイじゃない!」と信じていたのだから、ファンというのは常に信じたいことしか信じないもののようです。


「恋するリベラーチェ」は、1977年から1981年までリベラーチェの恋人だったスコット・ソーソンによる同名の回顧録(暴露本)「Behind the Candelabra」を原作にしており、ふたりの出会いから亡くなるまでのリベラーチェの晩年のはなしです。二人の性的関係がハッキリと描いており、リベラーチェがベットでは”受け”あったこと(誰もが、そうだろうとは思っていたけど!)や、性的不能気味だったリベラーチェがペニスにシリコンを注入していたことも、しっかりと描いています。二人が出会いが、スコット16歳、リベラーチェ58歳の時だったことを考えると・・・倫理観的に問題のある関係であったのですが、本作では未成年への性的行為であったという点には触れてはいません。

マイケル・ダグラスの声質が、元々リベラーチェに似ていることもあって、モノマネ演技としての完成度は高いです。マット・デーモンとの激しいセックスシーンをブヨブヨの老体を晒して演じる捨て身っぷり・・・また、ステージでのパフォーマンスシーンでは、(おそらく音は別に録音されているでしょうが)実際にピアノを弾いていたようでした。そして、ヘアメイク/特殊メイクの素晴らしさは、驚愕のひと言・・・豊作の冒頭シーンでは、シワシワの老け顔(特殊メイクなし)でマイケル・ダグラスは登場するのですが、フェイスリフトの整形手術とケミカルピール後の若返った顔は、パンパンでツルツルなのです。


御年42歳となるマット・デーモンは、16歳から25歳を演じているのですが・・・冒頭では、肌がピチピチ。1970年代後半にゲイの間で人気のあったブロンドボーイを見事に再現していました。リベラーチェに囲われ始めて徐々に太っていく体型、若いときのリベラーチェの顔に似せて整形手術で変化していく顔、麻薬で身を滅ぼしてボロボロになっていく様子など、見事な特殊メイクによって、鬼気迫る変貌をしていくのです。

本作には、マイケル・ダグラスとマット・デーモンの他に、有名俳優が出演しているのですが、特殊メイクが上手過ぎて誰なのか分からないほど・・・リベラーチェの母親を演じるのはデビー・レイノルズ、リベラーチェのマネージャーを演じるダン・アクロイドは、クレジットを見るまで気付きませんでした。リベラーチェとスコットの整形手術をする医者役にロブ・ロウが扮しているのですが・・・本人もフェイスリフトで顔が歪んでしまったという設定で、相変わらずの繊細な美形と相まって、なんとも異様な存在感がありました。


父親と息子のような関係でもありながら、性的関係もあるというのは・・・多くの人には理解し難いかもしれませんが、ゲイの世界では”ありがち”のこと。実際、ボク自身も19歳の頃に、20歳以上も年上でお金持ちの男性と付き合ったことがあります。自覚していたわけではありませんが、年上の男性に”父親”的なイメージは重ねていたところがあったかもしれません。当時(1980年代前半)、アジア系を好む白人ゲイというのは、裕福なおじさんが多かったのですのが・・・お金を出してもらって美容室や日本食レストランを始めるという日本人ゲイというのは、少なからずいたものだったのでした。リベラーチェとスコットほどの年齢差というのは極端なケースかもしれませんが・・・ゲイの関係に於いては、金銭のやり取りを含めた父親のような存在で恋人というのは、ひとつの恋愛関係のカタチではあるのです。

現在、AIDSは死に必ず直結するわけではありませんし、ゲイ”だけ”が発症する病気という認識でもありません・・・しかし、本作の舞台となった1980年代は違いました。リベラーチェが亡くなる直前のシーンは、特殊メイクかCGなのか分かりませんが・・・ガリガリに痩せ細り、灰色っぽい肌をしているマイケル・ダグラスの姿が、AIDSで亡くなった友人たちの最期に似ていて、ボクは非常に衝撃を受けました。「エイズで死んだ年老いたオネェなんて思われたくない」というのは、リベラーチェらしい言葉です。1985年にAIDSで亡くなる直前、ゲイをカミングアウトしたロック・ハドソンとは対照的・・・リベラーチェは自らゲイであることを死後でさえ公にすることはなかったのですから。


売名行為以外の何物でもない”キワモノ”の原作を、リベラーチェとスコット・ソーソンの”ラブストーリー”として描ききったことには、ボクは少々驚きました。リベラーチェから寵愛を受けた若者というのは、スコット以外にも大勢いたはず・・・本作でも、リベラーチェが次から次へと男を乗り換えていたことや、見知らぬ男との不特定多数の性行為を行なっていたことは描かれています。また、スコットもマイケル・ジャクソンとも肉体関係があったと語るなど、相変わらずの売名行為を続けています。「恋するリベラーチェ」は、リベラーチェも、スコット・ソーソンも、決して「本当はいい人だった」と描いているわけではありません。それでも、本作を見た観客が二人の間には”愛”があったと感じることができるのは、スティーヴン・ソーダーバーグ監督が「そうであった!」と信じているからに他ならないのです。




「恋するリベラーチェ」
原題/Behind the Candelabra
2013年/アメリカ
監督 : スティーヴン・ソーダーバーグ
出演 : マイケル・ダグラス、マット・デーモン、ダン・アクロイド、ロブ・ロウ、デビー・レイノルズ、スコット・バクラ

2013年11月1日より日本劇場公開



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2013/09/19

”ハイファッション”を信じる”業界オネェさん”が支える世界・・・1%の富裕層のための百貨店はアメリカンドリームのアイコン~「ニューヨーク・バーグドルフ 魔法のデパート/Scatter My Ashes to Bergdorf's」~



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「昔は良かった」的な発言って、いかにも年配者の言い草で、あまり言いたくないんだけど・・・1980年代から90年代にリアルタイムで”ファッション”に関わったボクの世代の人たちの多くが、多かれ少なかれ感じていることだと思います。ただ・・・それは、ボクの前の世代(1960年代~70年代を経験した人たち)も感じていたことなのです。

近年、ハイエンドのファッションデザイナーや雑誌編集者に関するドキュメンタリー映画というのが続々と制作されています。その一方、ますます”ファストファッション”の売り上げはうなぎ上り・・・エンタメ情報として求められる(そして、あっという間に消化されてしまう)のは”ハイファッション”でありながら、その観客が実際に購入されているのは”ファストファッション”ということなのかもしれません。

「ニューヨーク・バーグドルフ 魔法のデパート」は、ニューヨークの唯一無二の存在である超高級デパート「バールドルフ・グッドマン」の魔法の扉を開く(?)ドキュメンタリー映画です。原題の「Scatter My Ashes to Bergdorf's」=「私の遺灰はバールドルフに蒔いて!」というのは「ニューヨーカー誌」に掲載されたカートゥーンから引用されたフレーズ・・・「葬られたいほどの素晴らしい場所」であるということなのです。


数々のセレブやデザイナー達によって「バールドルフ・グッドマン」の素晴らしさが語られ、裏を支えるパーソナルショッパーやディスプレイスタッフへのインタビューや取材によって構成されている本作は、ドキュメンタリー映画としては、正直”まとまり”に欠けている印象・・・残念ながら「バールドルフ・グッドマン」について全く知らない観客には、その”魔法”さえ伝わりにくいかもしれません。

ボクは、1985年にパーソンズデザイン大学のファッションデザイン科に入学したこともあって「バールドルフ・グッドマン」には、学生時代からよく足を運んでいました。当時は現在のウーメンズ館だけしかなく、確か・・・メンズは地下(現在はコスメ売り場)にあったような(?)記憶があります。

女性のハイファッションに興味のあったボクは、部屋を通路で繋げたような構造のクチュールサロンのあった2階の売り場を、週に何度も通っていたのです。セール時期にには、1着が数十万円もするイブニングドレスやカクテルスーツが、通路に無造作にローリングラックに掛けられるのですが、その風景は消費社会の皮肉さを見せつけているかのようで、圧巻ありました。ファションデザインを学ぶ学生にとって、実際にトップデザイナーの服を間近で見ることのできる絶好のチャンス・・・内側の始末まで服を裏返してボクは見ていたものですが、販売スタッフの”おばさま”方は、そんなデザイン学生にも大変寛容で、暖かい眼差しで、時には応援の声までもかけてくれたりもしました。「バールドルフ・グッドマン」は、ただ高級品を売る敷居の高い”だけ”の店ではなく、富裕層のためのハイファッション業界を支えていたのかもしれません。当時ニューヨークにあったヨージヤマモトの店では、服を触るだけで「コピーするのか?」と厭味を言われたりしたのとは”対照的”でした。

「チャリバリ/Charivari」「マーサ/Martha」「リンダ・ドレズナー/Linda Dressner」などのハイエンドのセレクトショップの撤退、「サクス・フィフスアベニュー/Saks Fifth Avenue」「ブルーミングデール/Bloomingdale's」が、”ハイファッション”の販売店としての存在感を失っていく中・・・たった1%の富裕層をターゲットとした「バーグドルフ・グッドマン」は、ラインのエクスクルーシブ(独占)によってデザイナーや顧客を囲い込むことによって、さらなる伝統と歴史を築き上げて、アメリカンドリームの”アイコン”にまでなったのです。


本作は、クリスマス商戦のウィンドウディスプレイの完成に向けて進んでいくことになります。ニューヨークのクリスマス商戦のディスプレイというのは、実はどこのデパートでもかなり力を入れており「バールドルフ・グッドマン」だけに限ったことではありません。インテリア/陶芸デザイナーのジョナサン・アドラーの彼氏としても知られるサイモン・ドーナン氏が手掛ける「バーニーズ」のショーウィンドウは、毎年斬新なディスプレイが話題になりますし・・・伝統的なクリスマスシーンを緻密かつ豪華に表現する「サクス・フィフス・アベニュー」のショーウィンドウは、多くの人が行列するほど、ニューヨークのクリスマスの風物詩となっています。本作のエンディングで披露される「バールドルフ・グッドマン」のショーウィンドウも、大変美しいものなのですが、クリエーションのプロセスをじっくり見せるというほどではなく・・・単にディスプレイ主任のデヴィット・ホーイ氏を追うだけに終わってしまっているのが残念でした。

「ニューヨーク・バーグドルフ 魔法のデパート」を観て気付かされたのは、スタッフが思いの外”高齢化”していること・・・そもそも顧客の年齢層が高いこともありますが、販売スタッフ、ディスプレイスタッフ、警備員まで専門職なので、優秀なスタッフは長く働き続けるということがあるのかもしれません。主要スタッフはボクよりひと回りほど上の世代(60代?)のようで、1980年代から”現役”としてファッション業界に関わっていた人たち・・・彼らの信じる”ハイファッション”の世界が、ボク自身が馴染み深い”ハイファッション”と一致するのは当然と言えば当然のことなのです。インタビューに答えているデザイナーやスタッフの男性(経営陣を除いて)は、俗にいう”業界オネェさん”の方々・・・裕福な女性のためのファッション/美容に関わるのは、ゲイ男性という図式はニューヨークでは永遠のようであります。


「ニューヨーク・バーグドルフ 魔法のデパート」
原題/Scatter My Ashes to Bergdorf's
監督 : マシュー・ミーレー
出演 : カール・ラガーフェルド、クリスチャン・ルブタン、マーク・ジェコブス、トム・フォード、トリ・バーチ、ジョルジオ・アルマーニ、マノロ・ブラニク、パトリシア・フィールド、ラウドミア・プッチ、シルビア・フェンディ、ドメニコ・ドルチェ、ステファノ・ガッバーナ、メアリー=ケイト&アシュレー・オルセン、ニコール・ニッチー、ヴェラ・ウォン、ダイアン・フォン・フォステンバーグ、ジョーン・リヴァース、キャンディス・バーゲン、マイケル・コース、

2013年10月26日より日本劇場公開


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