2016/06/28

ウディ・アレンの「殺人映画」・・・”罪悪感”と”笑い”から導かれる非倫理的な教訓~「ウディ・アレンの重罪と軽罪」「マンハッタン殺人ミステリー」「マッチポイント」「タロットカード殺人事件」「教授のおかしな妄想殺人」~


45作目(?)となる最新作「教授のおかしな妄想殺人」が無事に(?)日本でも劇場公開されているウディ・アレンは、ほぼ毎年映画一本を発表し続けるという世界的にみても多作な映画監督であると言えます。御年80歳でありながら、映画のアイディアが尽きることなく、制作スピードが衰えないというのは驚くべきことです。

ボクは「アニー・ホール」(1977年)からウディ・アレン監督作品をリアルタイム観た世代で、特に「サマー・ナイト」から始まるミア・ファローをヒロインとする一連の作品(「夫たち、妻たち」まで)には思い入れがあります。

初期(「アニー・ホール」以前)から「ウディ・アレンの愛と死」で哲学的なテーマを扱ったり、「インテリア」(1978年)では一切笑いを封印した自死を扱ったシリアスドラマを製作したりしていますが、1989年の「ウディ・アレンの重罪と軽罪」では、売れないドキュメタリー作家の悲喜劇とセレブ医者のシリアスドラマであります。ありがちな不倫関係に末の愛人殺しという・・・火曜サスペンスでさえ使い古された平凡な物語(?)が、二つの物語を並行して描くことによって劇的に面白くなっているのです。


「ウディ・アレンの重罪と軽罪」は、公開当時は賛否両論だったと思うのですが・・・その理由のひとつに、シリアスドラマのセレブ医者が罪に問われることがないという結末にあるのかもしれません。セレブな医者である既婚者のジュダ(マーティン・ランドー)は、CAの独身女性ドロレス(アンジェリカ・ヒューストン)と不倫関係を持ってしまうのです。ジュダにとっては火遊びだったのですが、元々精神的に不安定だったドロレスは、次第にジュダに離婚することを求めて脅迫するようになっていきます。

そこで、裏社会と関係のある弟(ジェリー・オーバック)が手配した殺し屋に、ドロレスの殺害を依頼します。ジュダは罪悪感に苛まれながらも、罪に問われることもなくセレブ生活を続けていくというエンディング・・・人生のシリアスさとコメディは紙一重というシニカルな視点は、ボク個人的には、かなりお気に入りではあったのです。

しかし、その数年後(1992年)、ウディ・アレンは事実上のパートナーであったミア・ファーローの養女スン・イー(当時21歳)との交際発覚・・・ミア・ファローとの決別後、スン・ニーとは正式に結婚します。このスキャンダルは、「私生活とクリエーションは別物」と普段は考えているボクでさえ生理的に受け入れ難く・・・不倫と、不倫にまつわる殺人を描いた「ウディ・アレンの重罪と軽罪」は、どことなく不快な気持ちにさせられる作品なってしまったのです。

ミア・ファーローを念頭において書かれた最後の脚本だといわれる1993年の「マンハッタン殺人ミステリー」(実際に演じたのはダイアン・キートン)も、妻の妹と共謀して妻を殺す夫を捜査する物語で、最終的には殺人者の夫は捕まるものの、殺人という罪だけでなく、妻の妹(血縁者)との不倫という二重の裏切りは、ウディ・アレン自身のミア・ファーローとの一連の経緯を連想させ・・・その後しばらく、ボク自身はウディ・アレンの映画を観る気にはなれない時期が続きます。

スキャンダル後、世間の風当たりは厳しく、評価の高い作品(「ブロードウェイと銃弾」など)を発表し続けるものの、興行的にはウディ・アレン作品は低迷・・・アメリカ国内での映画製作に行き詰まりがあったのか、活躍の場をヨーロッパへと移して「マッチポイント」「タロットカード殺人事件」「カサンドラ・ドリーム」を製作します。このロンドン三部作は、三作品とも殺人をテーマにした「殺人映画」・・・ミステリーの本場(?)を意識してなのでしょうか?


2005年の「マッチポイント」は、イギリス上流階級の逆玉にのった男が愛人を殺す物語・・・その上、殺人を犯す主人公は罪を問われることもなく結末を迎えます。元テニスプレイヤーでテニスインストラクターのクリス(ジョナサン・リース=マイヤー)は、高級テニスクラブで上流階級出身のトム(マシュー・グッド)と知り合います。そして、トムの異能とのクロエ(エミリー・マーティマー)と付き合うようになります。しかし、同時にトムのフィアンセでもある女優志願のアメリカ人ノーラ(スカーレット・ヨハンソン)に惹かれてしまい、肉体関係を持ってしまうのです。

ノーラとトムの婚約は破綻してしまうのですが、クリスはクロエと結婚・・・しかし、ノーラとの関係を清算することはできず、強盗を装おってノーラを殺害してしまいます。唯一、物的証拠となりえる指輪は、運良くホームレスによって拾われて、クリスは容疑者に名前が浮かびながらも、連続強盗殺人事件だったと判断されて、罪に問われることはないのです。


続く2006年の「タロットカード殺人事件」は、売春婦殺しの富豪(ヒュー・ジャックマン)の物語で・・・ジャーナリスト志望のアメリカ人学生のサンドラ(スカーレット・ヨハンソン)と冴えないマジシャン(ウディ・アレン)が、ジャーナリストの亡霊(イアン・マクシェーン)の情報(原題の「Scoop」はここから)を元に捜査するというドタバタ劇であります。

「タロットカード殺人事件」は「マンハッタン殺人ミステリー」と似ているところがあり、興味本位で殺人事件に顔を突っ込んだおかげで、サンドラは殺されそうな目に遭ってしまうのです。最後には、富豪はあっさりと捕まってしまうものの・・・「邪魔な女は殺す」という動機を生々しく感じてしまうのは、ボク個人のウディ・アレンに対する生理的な感情からかもしれません。


最新作の「教授のおかしな妄想殺人」は、ウディ・アレンが繰り返し取り上げる”殺人”をテーマとして、シニカルな笑いを含み、悲喜劇ともシリアスドラマとも受け取れるウディ・アレン独特な作品で・・・評判はそれほど良くなく、どちらかといえば「はずれ」の作品かもしれません。しかし、哲学科教授のエイブ(ホアキン・フェニックス)が悪徳判事を殺害することに生き甲斐を見つけるという寓話的な設定や、登場人物を端的な台詞で巧みに描き分けているのは、毎度のことながら”お見事”です。

大学に赴任してきた哲学科教授のエイブは、人生の意味を見出せない無気力な日々を過ごしています。それでも、同僚の中年女性リタ(パーカー・ポージー)とセフレの関係になったり、生徒のジル(エマ・ストーン)から恋されるという・・・実は結構なモテモテな”おじさん”です。ウディ・アレンの作品では、何故か主人公の”おじさん”が女性にモテるというところはあり、ウディ・アレン自身が演じている場合には、かなり違和感を感じさせるのですが・・・中年太りでお腹が出まくりながらも、妙に色気を発散するホアキン・フェニックスのキャスティングが本作では絶妙で、アメリカの地方の大学には「あるある」かもしれません。


ある日、エイブは悪徳判事の噂を耳にして、一切関連性のない自分が判事を殺す完全犯罪を妄想し始めるのです。入れ替え殺人とは違いますが・・・無関係な人が殺人を犯すことで完全犯罪が成立するという発想は、ヒッチコックの「見知らぬ乗客」を思い起こさせます。人生の目的を見つけたエイブは見違えるように生き生きさを取り戻し、毒入りの飲み物で判事の殺害に成功してしまうのです。

ここからネタバレを含みます。


勿論、これで「めでたし、めでたし」というわけではありません。ジルは、エイブの犯行であることを確信するに至り、それを察知したエイブはジルも殺害しようと企てるのです。ジルのピアノレッスンの帰り、エレベーター前で偶然を装おって待ち伏せするエイブ・・・ジルをエレベーターに突き落とそうとして、逆にエイブ自身が誤って落下して、あっさり死んでしまいます。

自業自得で天罰を食らうという・・・今までのウディ・アレンの「殺人映画」とは違う全うエンディングにボクは少々面食らいました。邦題の軽妙なタイトル(ドタバタ喜劇?)と内容は違い、笑いも極ブラックで、意味なく哲学的な会話・・・ウディ・アレンの今までの作品で繰り返し使われてきたモチーフや、焼き直しされた台詞を散りばめている印象です。

最後はジルが自問自答する教訓(?)で終わるわけですが・・・そうとしか”オチ”のつけようのない小咄であり、そういう意味でも「はずれ」と評価されてしまうのは仕方のないのかもしれません。

ウディ・アレンのファンとしては、2016年7月15日にアメリカ国内で劇場公開される1930年代のハリウッドを舞台にした「カフェ・ソサエティ(原題)/Cafe Society」、そして、タイトル未定のアマゾン配信のテレビシリーズ(6エピソード)に、すでに関心がうつってしまっているのです。


「教授のおかしな妄想殺人」
原題/irrational Man
2015年/アメリカ
監督&脚本:ウディ・アレン
出演   :ホアキン・フェニックス、エマ・ストーン、パーカー・ポージー
2016年6月11日より日本劇場公開

「ウディ・アレンの重罪と軽罪」
原題/Crimes and Misdemeanors
1989年/アメリカ
監督&脚本:ウディ・アレン
出演   :マーティン・ランドー、アンジェリカ・ヒューストン、ジェリー・オーバック、ウディ.アレン、ミア・ファーロー、アラン・アルダ
1990年4月6日より日本劇場公開

「マンハッタン殺人ミステリー」
原題/Manhattan Murder Mystry
1993年/アメリカ
監督&脚本:ウディ・アレン
出演   :ウディ.アレン、ダイアン・キートン、アラン・アルダ、アンジェリカ・ヒューストン
1994年8月13日より日本劇場公開

「マッチポイント」
原題/Match Point
2005年/イギリス、アメリカ
監督&脚本:ウディ・アレン
出演   :ジョナサン・リース=マイヤー、スカーレット・ヨハンソン、エミリー・マーティマー、マシュー・グッド
2006年8月19日より日本劇場公開

「タロットカード殺人事件」
原題/Scoop
2006年/イギリス、アメリカ
出演   :スカーレット・ヨハンソン、ウディ.アレン、ヒュー・ジャックマン、イアン・マクシェーン
2007年10月27日より日本劇場公開

「カフェ・ソサエティ(原題)」
原題/Cafe Society
2016年/アメリカ
監督&脚本:ウディ・アレン
出演   :スティーブ・カレル、シェリル・リー、ジェッシー・エステンバーグ
日本公開未定

タイトル未定(テレビシーズ)
2016年?/アメリカ
監督&脚本:ウディ・アレン
出演   :ウディ・アレン、レイチェル・ブロスナン、ミリー・サイレス、ジョン・マガロ、エレイン・メイ
日本公開未定(アマゾンビデオ配信)


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