2018/01/30

ポーランドの新鋭監督によるポップでキッチュな2作品・・・アグニェシュカ・スモチンスカ(Agnieszka Smoczynska)の不思議ちゃん系人魚ホラーミュージカルとクパ・チェカイ(Kuba Czekaj)の男の子の悪夢~「ゆれる人魚/The Lure」「ベイビー・バンプ(原題)/Baby Bump」~


ポーランドの映画監督というと”アンジェイ・ワイダ”が、まず頭に浮かんでしまうのは、日本の映画監督というと”黒澤明”という名前を挙げてしまうようなものなのかもしれません。世界的に評価されているポーランド映画は、社会主義国家ならではの政治色の強い作品が多く・・・少々取っ付きにくい印象もあったりします。

ただ、他にもイェジー・カヴァレロヴィッチ、クシシェトフ・キェシロフスキなどの巨匠級の映画監督もいるし、ポーランド出身の映画監督というと、ロマン・ポランスキー、ワレリアン・ボロズウィック、アンジェイ・ズラウスキー、ヴォイチェフ・イエジー・ハスなど、なかなかクセのある”ヘンタイ”監督(!?)を排出しているお国柄だったりします。最近、たまたま観たキッチュな2作品が、ポーランドの新鋭監督による作品だったもの偶然ではないと思えるのです。


「ゆれる人魚」は、一見すると日本人が好みそうな”不思議ちゃん系”の映画・・・新鋭女性監督アグニェシュカ・スモチンスカによる長編劇映画デビュー作品ですが、日本での劇場公開も決定しております。人魚の姉妹がワルシャワのクラブで人気歌手になるという突拍子もない設定なのですが、そもそもは姉妹の歌手(人間の!)の物語だった脚本を、あれこれ試行錯誤しているうちに姉妹を人魚にしてしまったという経緯だったそうです。ただ、人魚といっても・・・「スプラッシュ」「リトルマーメード」「愛しのアクアマリン」などの過去の人魚映画から想像される”美しい”もんじゃないくて、パッと見は”ウミヘビ”?という印象を持ってしまうようなグロテスクな人魚であります。


1980年代のワルシャワ・・・人魚の姉妹シルバー(マルタ・マズレク)とゴールデン(ミハリーナ・オルシャンスカ)は、海辺で歌声に誘われるように沖に上がりナイトクラブに辿り着きます。まだ社会主義国だったワルシャワに、これほどカラフルなクラブが存在していたのだろうか?なんて思ってしまいますが、これは、本作の監督や脚本家が、子供時代を過ごした1980年代の残像ということ・・・ニコラス・ウィンディング・レフィンやギャスパー・ノエを彷彿させるジャーロな色彩センスにはノスタルジーも感じさせます。

人魚姉妹の人間社会からの扱われ方は、異文化/移民への対応であったり、ひと昔前の女性の扱われ方だったりを連想させるところがあります。ただ、男も女も人魚姉妹の生物を超えた性的魅力にメロメロで、人魚の姿の彼女たちとのセクシャルな行為に耽ってしまうというのは、なんとも怪しげであります。また、本来の伝説に基づいているらしく、人魚姉妹は人間の”男”を食べなければ生きていけないというのがホラーです。


しかし、シルバーはバンドメンバーの一人のミテーク(ヤーコブ・ジェルシャル)に恋に堕ちてしまうことで、物語は悲劇的な方向へ向かっていきます。人間に恋をした人魚が、その恋を成就できない時には泡となって消えてしまうのですから。人魚が人間の姿のときは生殖器も排泄器もないツルツル状態。ミテークと(肉体的にも)結ばれるため、シルバーは(魚の下半身を失えば声を失ってしまうにも関わらず)人間の下半身を移植して人間になることを決意するのです。

先日、このブログでも取り上げた「RAW~少女のめざめ~」と同じく、グロテスクな本作ではありますが、アンビエントなサウンドが際立つミュージカル仕立ての本作は、あえての”ダサおしゃれ感”を狙ったようなキッチュでポップ場面があるかと思えば、ダークなシリアスドラマのような場面もあります。少女(人魚ですが)の性のめざめの物語のようでもあるし、女性へのハラスメントを告発しているようでもあるし、童話「人魚姫」どおりの切ないファンタジーでもあるし、いくつもの映画がひとつの作品になったような印象もある不思議な映画なのです。


もうひとつのポーランド映画「ベイビー・バンプ(原題)」も、新鋭男性監督クパ・チェカイによる長編劇映画デビュー作品で、こちらも・・・ある意味”不思議ちゃん系”かもしれません。主人公の11歳の少年ミッキー・ハウス()の心理的な現実(?)を、昔風のアニメーション、雑誌のようなポップ、斬新な編集、奇抜なインターカットなどをコラージュしており、”カミング・オブ・エイジ”系ではあるのですが、幼少期から思春期へと成長していく少年のぶっ飛んだファンタジー映画でもあるのでもあります。


「悪夢」「現実」「仮想現実」「空想」「疑似体験」が、カット毎ぐらいに入れ替わるので、物語を追うのに混乱してしまうのですが・・・シングルマザーの母親から溺愛されていることの不満や、思春期の身体の変化(夢精や勃起など)の不安を感じているようです。上級生のいじめっ子たち、執拗に絡んでくる同級生の女子、母親にモーションかけている警官らも加わり、現実と非現実はごちゃまぜで描かれていきます。

また本作は、さまざまなシンボルや比喩を多用しているので、一度観ただけでは訳の分からないことばかり。ただ、ミッキー・ハウスのアルターエゴとして登場する耳の大きなネズミのアニメーションキャラクター(このキャラクターだけ何故か台詞は英語)が、時にはミッキー・ハウスに助言をしながら、観客に対して解説の役回りも担っているような気もします。

この耳の大きなネズミを(まさに!)吐きだして、踏み潰すことで、ミッキー・ハウスは自我を確立して・・・母親と卵を奪い合いを制して、たまごから生まれ直す(!)ことによって、幼少期から思春期へ脱皮するするのです。男性にとっては、性の目覚めよりも居心地悪く感じられるようなビミョーな時期の描写に、なんとも居心地の悪さを感じるところもあるのですが、女性にとっては少年がこんな過程を乗り越えていたとは考えもしないのかもしれません。ティーン以前の少年の心と体の変化を、これほどグロテスクに(!)表現するとは・・・クパ・チェカイ監督の恐るべしのデビュー長編作品であります!


「ゆれる人魚」
原題/The Lure
2015年/ポーランド
監督 : アグニェシュカ・スモチンスカ
脚本 : ロベルト・ボレスト
出演 : キンガ・プレイス、マルタ・マズレク、ミハリーナ・オルシャンスカ、ヤーコブ・ジェルシャル、ジグムント・マラノヴィッチ、カタジーナ・ヘルマン、マンジェイ・コノブカ、マルチン・コヴァルチク、マグダレーナ・チェレツカ
2017年9月17日第10回したまちコメディ映画祭 in 台東にて公開
2018年2月10日より劇場公開


「ベイビー・バンプ(原題)」
原題/Baby Bump
2015年/ポーランド
監督&脚本 : クパ・チェカイ
出演    : カクパー・オルツォウスキー、アグエツカ・ポドシアディク、カイル・スウィフト、セバスチャン・ラーチ、ウェロニカ
日本未公開



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